まれになく腹の立つ本である。大河ドラマ研究家(?)の一人としては、どうにも黙っているわけにゆかず、ここにそのことを書いておきたい。
とにかく読んでいて不愉快にさせられる文章である。番組自体はもちろん、大河の原作、脚本、俳優などに対して「あれはよい」「あれはよくない」といった具合に、個人の感覚の赴くままに書かれている。考察などまるであったものではない。趣味で書かれたブログ記事であればそれもまだ許される範囲だろうが、書店に並ぶ価格のついた商品とするにはあまりにもお粗末。そのあたりからしてこの著者の物書きとしての品格、品性を疑うところである。
また、誤植なのか誤記なのか単純なデータの間違いも多く、資料的価値すらかなり低いと言わざるを得ない。そもそもこの著者、実際に番組をすべては見ていなかったりするらしく、それで優劣を語るなどもってのほかである。
冒頭、自分ではマニアではないと書いておきながら、その内容は変にオタクじみている。また大河ドラマは歴史そのものではなく創作なのだから必ずしも史実に即してる必要はないと書いておきながら、一方でくだくだしい歴史のうんちく話が出てくる。この著者は自分がさも博識であるということをひけらかしたいだけなのかと、これもまた読んでいて不愉快になったところ。本書中には「あの番組は崩壊していた」なんていう表現も出てくるのだが、あんたの文章のほうがよっぽど崩壊しているぞ(あー、言っちゃった)。
これと同じころ出た同じく新書に中島丈博「シナリオ無頼」がある。これに続けて読み始めたが、あまりに落差が大きい。お金を出して買った本はこうでなくてはいけない。やはりプロである。文章が落ち着いていて品がある。小谷野はこき下ろしていたが、中島は私にとって好きな脚本家の一人に入る(小谷野のひどい文章を読んだ後であるから余計に愉快。こうなると腹立ちを通り越して小谷野あわれである)。
「大河ドラマ入門」 小谷野敦 光文社新書
「シナリオ無頼」 中島丈博 中公新書
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